子育てをしながら外科医として活躍する赤坂治枝先生に聞いた、女性医師として第一線で働き続けるために必要なこと。
私の場合、大学を卒業する時がちょうど現在の初期臨床研修制度が始まった年でした。まずは青森県立中央病院で初期研修を行い、研修後は弘前大学の消化器外科に入局しました。当時は、研修時から大学の各講座に所属するのが当たり前でしたが、最近では大学の講座に入らない研修医も多くなってきている印象です。大学の講座に入る、入らないは人それぞれですが、私自身はこれまでを振り返ってみて講座に入って良かったと感じています。もし一つの病院で働き続けたとすると、どうしても特定の領域や偏った患者さんしか診ることができません。講座に入ることで、大学での高度医療はもちろん、派遣によって市中病院の幅広い医療や民間病院の得意とする医療など、いつでもどこでも学ぶべきことを学ぶ。私はそうして外科医としての幅広さを身に付けてきました。今の外科医としての自分があるのは、女性医師としてではなく一医師として責任ある仕事を多く経験させていただいた講座のお陰だと思っています。
そして現在、私は外科・手術部長として青森厚生病院で勤務しています。当院は5つの診療科を有する282床の中規模な病院ですが、外科には悪性疾患の他、ヘルニアや胆石症を始めとする良性疾患など、さまざまな患者さんが訪れます。外科の診療実績としては特に腹腔鏡下胆のう摘出術が多く、腹腔鏡手術に触れるチャンスに恵まれています。また外科疾患に限らず様々な症状を有する患者さんが受診されるため幅広い知識が要求されますが、それにより新たに学ぶことがたくさんあります。
全国的にも女性医師のキャリアが見直され、出産や子育てをしながらでも働ける社会にするべく様々な対策が進みつつあります。もちろん、女性医師が増加している現状を踏まえ、こうした取り組みは必要だと考えますが、これからは性別に関係なく、みなが働きやすく、プライベートも重視できる環境が普通になればいいと思っています。それには、自分の行動に責任を持ち、何事にも誠実に取り組み、コミュニケーションによって信頼関係を築きながら、お互いが多様な働き方を認め合うことが大切です。
男性医師も介護や健康問題などで当直ができなくなる事もあるでしょう。男女関係なく、誰しもいつかは助けが必要になるときがくるのです。私は子育てをしているため、当直や夜間の呼び出しなどを減らしてもらいながら、手術など医療の最前線に立ち外科医として多くの勉強をさせてもらっています。それができるのは、他の先生が私の代わりに当直などに入ってくださっているからです。そうした助けがあって私は外科医としてやりがいをもって働けており、周りのスタッフに対する感謝の気持と、「子育てが終われば、次は私が誰かを助けたい」ということを念頭に働いています。
急速な高齢化に直面するこれからの時代は、都会であれ地方であれ、多くの医師に求められるのはプライマリ・ケアの能力です。自分の専門領域については当然の事ながら、患者さんが訴える様々な悩みに対して耳を傾け、自ら解決策を考え、答えを返してあげることができる医師こそが最も必要とされると思います。全国と比較しても決して医師の絶対数は多くない青森であるからこそ、ここで働く医師一人ひとりが必然的に幅広い医療に携わることになります。言い換えれば、プライマリ・ケア能力のトレーニングを積むのに相応しい環境が青森県にはあるのです。これこそが、医師が青森で働く上での一番の医療の魅力なのだと思います。
医学生や研修医のみなさんは、専門性の高い医療であれ、プライマリ・ケアであれ、これからの時代に必要とされる医師としての能力を身に付け、一人ひとりの患者さんのニーズに応えることができる医師を目指してほしいと思います。その中で、これから青森県で働きたい、あるいは、青森で外科医を目指そうと考えている女性医師・医学生に対しては、かつて私が憧れた外科医の先生みたいな存在に自分自身がなれる様に、少しでも前を走って行ければと思います。青森で一緒に新しい道をつくって行きましょう。
取材・撮影:2017年7月7日
青森厚生病院 外科・手術部長
赤坂 治枝 (あかさか はるえ)
弘前大学卒業(平成16年)
専門:外科、消化器外科
私が消化器外科の道に進んだのは、学生時代の消化器外科での実習において、一人の女性医師が術前カンファレンスで堂々とプレゼンテーションをしている姿を見たことがきっかけです。私もそういう医師になりたいと憧れました。残念ながら、当時は女性が外科を選択することに否定的な意見も多かったのですが、そうした憧れの先生の存在によって「女性の私でも外科に進んで良いのだ」という気持ちになれたことが、外科に進む大きな原動力となりました。
当時と比べれば、今は女性が外科に進むことも増えてはきましたが、まだまだ少ないのが現状です。外科に進みたくても体力面の心配や、子育てなど家庭との両立を考え、あきらめてしまう女性も多いと思います。私は弘前大学の助教として大学の講義にも携わっていた関係で、医学生と話す機会があり、進路に迷っているという声を多く聞いてきました。そんなとき、私は「やりたいと思ったことをやりなさい」、「できるだけ早くに専門科を決めなさい」と言っています。自分のやりたい医療を、両立できるかどうか心配してあきらめてしまうのはもったいないですし、途中でどうしても専門科を変えたいと思ったならば、そこで変えればいいのです。仮に、外科から内科医に大きくシフトしたとしても、外科での経験は内科になった時に必ず活きてくるはずです。
私の場合は医学生のときから消化器外科に入ると決めていたので、卒業と同時に始まった新臨床研修制度による不安はなく、各診療科を回った際に、「将来は外科に進みたいので、それに必要な技術や知識を教えてください」というスタンスで有意義な学びを得ることができましたし、外科と様々な診療科とのかかわりを考えながら研修を受ける事で「外科医の目」を養えたと思います。
2018年に始まる新たな専門医制度など、医療を取り巻く環境はどんどん変化していきますが、自分がこうなりたいという“軸”がしっかりしていれば、たとえ制度が変り、どのような状況になったとしても、全ての経験がその後の大きな糧になっていくと思います。