第2回
地域全体が研鑽のフィールド~医療機関の連携で総合医を育てる~

あなたの未来に大きな花を咲かせる青森県の医療。

今、時代が求める医師像をキーワードに、青森県で医師として研鑽する魅力を国民健康保険板柳中央病院の院長、長谷川範幸先生に聞いた。

“考える医療”を実践し、真の総合的な診療力を自然と身に付けられる医療がある

  • 国民健康保険板柳中央病院 院長 長谷川  範幸(はせがわのりゆき)

    国民健康保険板柳中央病院 院長
    長谷川 範幸 (はせがわ のりゆき)

    弘前大学卒業(平成8年)
    専門:糖尿病、地域医療
    趣味は鉄道で、自宅で模型を眺める時間が至福の時。お気に入りのアイテムは、列車を模したスマホのケース。

そもそも私が医師になろうと思ったのは、小学校時分に地元青森で何度か交通事故を目の当たりにする事があり、不幸にも事故にあった方が亡くなってしまうという場面に遭遇し、人の生命について考えるきっかけを得たからでした。
その当時、子供心に「どうしてこの場にお医者さんが直ぐ来ないのだろう、救急車にお医者さんが乗っていれば助かるのに」という思いが強く刻まれ、自分が医師になって怪我や病気の人を助けたいと思いました。
なので、最初は救急医を目指そうと考えておりましたが、実際に医師になり色々と勉強する間に、内分泌・代謝に興味を持ち今に至っております。

現在、私が院長を務める板柳中央病院は、青森県の北津軽郡という青森市、弘前市、五所川原市からほぼ等間隔、つまり、津軽平野の真ん中に位置し、高齢化と過疎化が進んでいる農村地帯にあります。また、全国ワーストテンに入る全国屈指の短命のエリアとなっています。
病院の規模は病床87床、基幹病院で手術や急性期の特殊な治療を終え戻って来た患者さんが、再び、そうした病気を再発しない様に生活習慣病や体調管理をする、所謂、地域包括ケアシステムの医療部分を受け持つ事が大きな役目と思っています。
加えて、当該エリアに病院が当院以外、一軒もないため、地元の救急車は基本、二次救急まで全て受けており、救急や入院の機能においては開業医と基幹病院の間を繋ぐ役割も果たしております。

地域における患者さんの多くは高齢者であり、複数の疾患を抱えている方が少なくありません。医療、介護、福祉に対するニーズも多様化しています。
一方、郡部の病院は必ずしも医師や医療スタッフの絶対数に恵まれているわけではありません。だからこそ、病院内にとどまらず各種医療機関、様々な介護施設、さらに他職種の方々と密な連携を取る事によって地域の医療・介護に対応しています。
皆様には、そうした環境で医師が如何なる経験をして、どの様に成長していくのか、その魅力とやりがいを少しでも伝える事が出来ればと思います。

まずは経験、出来るようになるには最良の環境

板柳中央病院は、大阪市立大学医学部臨床実習施設となっており、毎年、地域研修を受け入れています。患者さんの多くは複数の病気を抱え、教科書通りの症状でないことも多々あり、医師は都市部の大病院のように診断のついた患者さんや限られた分野の疾病しか診ないということはありません。
ですから、当院では研修生に2週間目から救急、外来、検査を担当していただき、常に自分自身で“考える医療”を実践することで、実力ある医師になるための研鑽を積んでもらっています。診断の付いた患者さんに対する検査や治療は、極端な言い方かもしれませんがマニュアルを見ればできます。若い頃に一生懸命に悩み、考えることで真に実力のある医師として一人前になっていくと考えています。
さらに当院ではそれぞれの役割が細分化されていないため、医師は場合によってCTやレントゲンも自分で撮り、単純写真を診る能力も有しています。また医師自ら採血検査を行うケースもあります。
皆様はびっくりされるかもしれませんが、経験の浅い若手医師にそうした写真撮影や検査をさせると、最初こそ戸惑うものの、いずれ何の苦も無く自分自身で出来る様になってしまいます。それどころか、自らが検査などを行うことによって、各診療科、各専門スタッフの動きを知ることができ、医師としての幅広い実力と共に、院内連携というチーム医療についても大きな学びを得ることができます。青森県の医師は面倒見の良い医師が多いのも特徴であり、バックアップがしっかりしているからこそ、これら実践的な幅広い医療を安心して経験していただくことができます。

あなたが医師として何をやりたいのか。その種を見つけ、大きな花を咲かせてほしい

当院も含め、青森県の医師は総合的・全人的な診療をせざるを得ない環境にあるため、必然的に幅広い医療に携わることになります。スペシャリストであってもジェネラリストとしての力を自然と身に付けることができます。私自身の持論ではありますが、ジェネラリストでありながら得意な武器を持っているスペシャリストというカタチが医師としての理想であると思っています。得意な武器を起点に、幅広く診ていくことで医師としての裾野も大きく広がって行くでしょう。

また連携という視点では、当院の新たな取り組みとして地域連携室を平成28年4月に立ちあげました。他の地域連携室と異なるのは、それまで患者さんやご家族の方は介護保険などの申請には役場に足を運ぶ必要がありましたが、地域連携室に役場介護福祉課職員・地域包括支援センター職員に来ていただき、介護保険、高額医療、障害者支援などの申請を院内にてワンストップで手続きができるようにしました。これも青森県の医療の特徴とも言える、医療と社会の関係がしっかり見える環境だからこそ、課題が浮き彫りになり、実現したことだと感じています。

このように、青森県の医療は、医療と社会の距離が近く、総合診療力のある医師としての幅広い実力を自然と身に付けることができる環境にあります。一人の医師がやらなければいけないことはたくさんありますが、それだけ医師一人ひとりが将来にわたって大きく成長できる種がたくさん落ちている場所でもあるのです。ジェネラリストや総合診療力を有したスペシャリスト、さらに開業医を目指すに関わらず、あなたが目指す医師になるための幅広い知識や技術を身に付けることができ、さらに研究などの学術的な部分においても、多くの種が落ちている青森県の医療環境は大きな魅力です。私自身で言うと、検視にも携わっていることで、215人の死因を糖尿病の有無に着目して検証・分析し、糖尿病がある人は、ない人に比べ、心疾患を原因とする割合が高い傾向にあることを示しました。これも幅広い医療に携わっているからこそできたことです。

撒いた種は直ぐに芽を出すことはないかもしれませんが、近い将来「やっていてよかった!」と必ず思える素晴らしい医療のフィールドが青森県にあると確信しています。医師にとって重要なのは、自分が何をやりたいのかをしっかり持つ事だと思います。青森県は、総合診療や他職種、地域社会との幅広い関わりを通して、あなたが医師として何をやりたいのかが必ず見つかる場所です。ぜひ、その種を見つけに来てください。その種が将来、しっかり芽を出し、大きな花を咲かせることができる。それが青森県で医師として研鑽を積む大きな魅力であると思っています。

住所 〒038-3672 板柳町大字灰沼字岩井74-2
主な診療科 内科・外科・眼科・耳鼻咽喉科・整形外科
病床数 87床(一般55床、療養32床)
URL http://www.town.itayanagi.aomori.jp/chuo-medical/
取材・撮影:2017年2月16日