
2023年、青森市内に『小松整形外科スポーツクリニック』を開院。手術支援ロボットの導入や県内初となるオンライン診療への挑戦など、自身が「やりたい」と考える医療を形にしながら、新たな取り組みに挑み続けている小松尚院長。自らの経験を振り返り、青森における整形外科医のキャリアの可能性や、オンライン診療に取り組む現在地、そしてこれから目指す医療のかたちなどについて話を伺いました。

サッカーが盛んな千葉県船橋市出身で、小中学生時代はサッカーに熱中していました。将来はサッカー選手になりたいと思っていたのですが、当時はJリーグがない時代。たとえサッカー選手になれたとしても、経済的・キャリア的にも不安定になるのではと感じていました。
そんなある日、テレビのサッカー情報番組で海外のプロサッカーを観ていると、救急バッグを持って怪我をした選手のもとに駆け寄るスタッフの姿を目にし、「これだ!」と強く興味を惹かれました。それがサッカードクターであることを知り、医師を目指したいと思うようになりました。
整形外科に進んだ理由は、診断から治療までを一貫して自分で行える外科系に興味があり、そのなかでもサッカードクターになるなら、筋肉や骨、関節といった運動器官を診療対象としている整形外科が最適だと考えたからです。
医師となり、出身地の千葉県に戻る選択肢もありましたが、人が溢れる都市部よりものんびりしている環境が自分には合っていると感じていました。これまで長く青森県で働いているのは、やはり青森という自然が豊かで閑静な環境や、温和で誠実な県民性の魅力に惹かれ続けているからだと思います。また、医師として地域に必要とされ、住民たちから大いに頼られるなど、地域社会に貢献できるというやりがいを感じられることも青森県で働く大きな魅力です。
サッカードクターについては勤務医時代から様々なところで経験を積んでおり、1999年のスペインで行われたユニバーシアードサッカー日本代表のチームドクターや、2000年からジュニアユースU-15の日本代表サッカーチームのチームドクターも担当しました。元・日本代表の家長昭博選手(現・Jリーグ川崎フロンターレ所属)や、細貝萌選手(現・Jリーグザスパ群馬 代表取締役社長代行兼GM)といった選手たちもチームドクターとして担当していました。
また、当クリニックでは「青森山田高校サッカー部」や「ラインメール青森FC」のチームドクターを担当している他、スポーツ外来を設け、治療やリハビリを行っています。
サッカードクターの活動を通じて培った人、特にともに選手の怪我を見てきたトレーナーとの繋がりはとても大きな財産になっています。これまで仕事をともにしたトレーナーたちと再び一緒に仕事をしたり、困ったときには助けて貰ったりと、今でも深い関係性を持ち続けています。こうした繋がりをこれからも大切にしていきたいと思っています。

都会では、肩の手術でいうと肩脱臼が多いですが、青森県の場合は農業・林業・漁業などの1次産業に従事されている方が多いことから、「肩の使い過ぎ」による肩腱板損傷の割合が高いです。
さらに、変形性膝関節症についても都会の患者さんに比べると症状が強く、人工膝関節手術になる方が多いことも特徴であり、腱板損傷の治療や人工関節手術についても、都会よりも数多くの経験を積むことができます。
キャリア形成において、特に外科系の医師にとっては“経験値”が非常に重要な要素となります。そのため、医師数の多い都会よりも、青森県の方が患者さんに触れる機会が豊富で、より多様な症例を経験できるため、医師としての確かな実力を培うのに有利な環境にあると思います。

開業を決意したのは自分のやりたい医療を実現するためです。たとえば、自分としては診断から手術・入院まで一貫して患者さんを診ていきたいという希望がありましたが、既存の病院ではなかなか実現が難しく、病床付きの医療法人を買い取ることを考えました。
開業のために銀行の融資が必要でしたが、返済を考えると60代では難しいのでは、という反対の声も多くあり、実際に多くの銀行に断られ、融資が下りるまでに苦労しました。そのような中でも、自分のやりたい医療をやるという一心で、様々な困難がありつつも開業まで進められたのだと思います。
開業の醍醐味は、やはり自身が責任を持ち、主体的に取り組める点です。勤務医であれば、どうしても組織の制約があるため、自分のやりたい医療や新たなチャレンジをしたいと思っていても、なかなか実現は難しい。たとえば、当クリニックでは人工膝関節全置換術(TKA)における「手術支援ロボット」を青森県で初めて導入していますが、勤務医ではそうした試みを実現できなかったと思います。
また、現在は「青森山田高校サッカー部」や「ラインメール青森FC」のチームドクターもしておりますが、特定チームのスポーツ選手を専属で診ることは、均等な医療提供の確保を目指す公立病院では難しく、こういったことも開業したからこそできたことだと感じています。
まずはリハビリテーションができるクリニックということが特徴です。整形外科ではリハビリしないと治らない人が多い一方で、外来通院でのリハビリができる施設が少ない。そのためか、青森市だけではなく、県内の様々なところから患者さんが来られています。
スポーツの専門診療を行っていることも特徴のひとつで、経験豊富なアスレティックトレーナーと共同で、質の高いスポーツリハビリテーションも提供しています。
また、関節鏡視下手術をはじめ多様な手術的治療を行っており、なかでも特徴的なのは、変形性膝関節症における人工膝関節全置換術(TKA)にて、青森県“初”の「手術支援ロボット」を導入していることです。執刀医の経験・技術に頼っている骨を削る量や人工関節の設置位置を、ロボットアームによる膝を三次元的に捉えた精密な評価計測によって執刀医をサポートすることで、より正確で安定した手術を実現しています。

勤務医時代から、患者さんは各所から来られていて、特に冬場は雪も積もるため通院が大変だろうなと感じており、開業したらオンライン診療を考えていました。クリニックの開設当初から患者さんにオンライン診療を勧めてきましたが、「スマートフォンを持っていない」「アプリの操作が難しい」といった声や、家の人に手伝ってもらうにも「日中は家に一人しかいない」という患者さんも多く、そうした現状がオンライン診療のネックとなっていました。
そこで、「誰かが操作を手伝ってあげれば実現できるはずだ」と考え、“同一地区の人たちが集まって行う、集団でのオンライン診療”ができないかを模索していました。
いろんな地域の自治体で勉強会や提案をしてもなかなか話が進まなかったため、法律的な問題で実現が難しいのかなと思い、厚生労働省に「集団でのオンライン診療が可能かどうか」を問い合わせると、「今度、オンライン診療推進専門官が青森県の健康医療福祉部長として出向するので、実現できるよう取り組みたい」という返事をいただきました。
その後、青森県庁と共に様々な話し合いや調整を行っていたところ、中泊町総合福祉健康センター『湯らぱーく』内にデイサービス事業所『ワイズ・パーク青森中泊店』(開設者:株式会社AKcompany)ができることとなり、そのデイサービスでやってみたら良いのではということで、青森県“初”のグループオンライン診療が実現できました。
人数がなかなか増えてこないのが課題ではありますが、中泊町で実現したグループオンライン診療のかたちを、他の地域にもどんどん広げていきたいと思っています。
医療施設数が多くアクセスの良い都会とは異なり、青森県では冬季の交通手段の課題もあって通院するのに不便な患者さんが多くいます。中泊町のようなグループオンラインが様々な地域で実現することができれば、通院にかかる時間や労力の大幅な削減、さらに早期治療や重症化予防にも貢献できるなど、患者さんにとって大きなメリットがあると思いますが、なかなか広まっていかないのが残念です。青森県は整形外科医がいない地域が少なくないため、市町村が積極的に取り組んでくれることを期待しています。
また、診療だけではなく、オンラインによる服薬指導や、自宅に薬を届けてくれるなど“オンライン処方”に関連するサービスも患者さんにとって非常に便利です。
こうした遠隔医療の普及拡大によって、医療アクセスが困難な地域が多い青森県の医療課題の解決や、医療の効率化によって医師の業務負担軽減も実現できると思います。

まず弘前大学の医学生には青森に残って青森の医療を支えてほしいというのが一つですね。現状、医師の多くは都市部に集まる傾向が大きいですが、地方だから研鑽が積めないわけではなく、例えば青森県では先ほどあげた腱板損傷や膝の変形性関節症をはじめとした症例は都市部よりも多く、様々な経験が積める環境にあります。都市部は医師過剰な状況でもあり、そうした世の中の流れも考えて、自分が学んだ大学でその地域を助けてあげるという考えを持ってほしいなと思います。
医学の世界は日進月歩で進化し、新しい治療法や医療技術は次々と登場してきます。“常に学び続ける力”を身に付けることも大切であり、医師としてのキャリアは、新たな知識と経験、そして、学びや研鑽を通じた人とのつながりのなかで築かれていくものだと考えています。その意味からすると、医師という職業は医師になるまでより、医師になってからの方が大事だということです。研究もあるでしょうし、臨床もあるでしょう。どこを目指しても楽しいと思うので、目標や将来の展望をしっかり持ってやっていくのが良いと思います。
目標を見つけるためには、自分の好きなことや得意なことを突き詰める姿勢が大きな鍵になります。私の場合はサッカーが好きだからサッカードクターになることを目標にキャリアを歩んできました。どの分野に進むべきか迷うこともあるでしょうが、好きなことや得意なこと、向いていると感じる分野に進むことは医師として成長するための大きな原動力になることでしょう。