男性の育休取得はハードルが高いと言われていますが、青森県における男性医師の育休事情はどうなのでしょうか?
青森県医師会副会長として女性医師の活躍・育児支援にも取り組んでいる冨山月子先生(内科おひさまクリニック院長)が発起人となり、育休経験をしたパパ医師5名から育休の感想や意見、要望などを聞きました。
2022年4月に、男性の育児休業の取得促進につながる「改正育児・介護休業法」が施行され、新生児期に母親が一人で子育てを抱え込むことがないよう、父親が育休を取得できる【産後パパ育休(出生時育児休業)】の創設や、事業主に対する育児休業取得率の公表の義務化などが定められたことで、男性の育児休業が取得しやすくなりました。
また、男性の育児休業の取得を促す目的としては、2010年に定められた母親の職場復帰時などに活用しやすい【パパ・ママ育休プラス】といった制度もあります。
「育休取得はキャリアに不利になるかもしれない」という懸念は依然として根強くありますが、数年ならまだしも、数か月の育休でキャリアに影響がでることはありません。子どもが大きくなるのはあっという間です。その貴重な時間を一緒に過ごすことは、たとえ1か月間であったとしても、長い医師人生のなかで大きな宝となるはずです。
妻の出産後8週までの期間内に、最長で4週間の休業を、育児休業とは別枠で2回に分けて取得できる制度。
夫婦の取得タイミングを調整することで、通常1歳まで取得可能な育休期間を1歳2か月まで延長できる制度。夫婦同時の育休取得も可能です。
育休の「前例がない」職場で働く男性医師にとって育休取得のハードルは非常に高いと思われますが、今回お話を聞いたパパ医師の5名中、4名が所属診療科で初めての男性育休取得者となっています。
さらに、『 (教授から)むしろ取ってほしいと背中を押してくださった』『以前、教授から育休取得を提案された』『パート先の病院で育休取得を快く受けてもらった』という声もあることから、育休取得に対する職場の理解・共感がしっかりあることはもちろん、男性医師の育休を力強く後押しするなど、青森県は“こころよく”育休を取得できる環境にあります。
育休は1か月前の申請で取得することができ、さらに、産後56日までに適用される【産後パパ育休】の場合は2週間前の申請で取得可能です。これはあくまでも制度上適用できる申請期限であり、育休によって受け持ち患者の引き継ぎ、外来診療の担当変更、当直の調整、場合によっては代替医師の確保などが必要となるため、育休取得の申し出はできるだけ早く行うことが大切です。妻の妊娠が分かったときには職場に相談しておくのがいいでしょう。
育休取得は業務のタスクを割り振ることになるため、多かれ少なかれ育休者の負担を同僚が担うことになり、医師ともなれば患者に対する責任も発生します。これは決して育休取得者の責任ではありませんが、常日頃から同僚に力を貸すなど、信頼関係をしっかり構築しておくことで、“育休者の負担を担う” という感覚が“互いに支え合う”というものになります。相手への配慮も育休をスムーズに取得するために非常に大切なことです。
青森県は医師不足県であり、全国8位の広い県土に人口が拡散していることが特徴です。狭い面積に大病院が林立する大都市とは異なり、青森県では広大な地域にいる患者を少ない医療機関、少ない医師でカバーしなければなりません。そのためチーム医療や多職種連携、病院間・施設間の連携・協力体制が非常に強く、「困っているというときには必ず助けてくれる先生がいる環境」にあるなど、青森県の医療には“助け合い”の風土が根付いています。
育休が取得しやすいかどうかの大きなポイントは「人と人との関係」です。いくら育休制度が整っていても、上司や周りの理解と協力、支援がなければ育休を取得しにくいのが実際です。“助け合い”の精神が息づく青森県は、上司や周りからの理解・協力・支援を得やすく、安心して育休を取得できる環境にあると言っていいでしょう。
男性の育休取得は、出産後の妻の負担軽減はもちろん、パパ医師の場合は妻が医療人である場合も多く、妻の職場復帰に向けた準備やスケジュール調整がしやすくなるなど、妻のキャリアにも貢献することができます。
さらに男性医師の育休取得は所属先にも大きなメリットをもたらします。
育休を取得することで、所属先では特定の医師に業務が集中する属人化の解消や、業務バランスの標準化が図られるなど、次のパパ医師が育休取得をしやすくなる流れができます。育児のサポート体制に手厚く、ワーク・ライフ・バランスに優れた環境が醸成されていくことで、人材の定着率アップ、新たな人材の確保といった好循環も生まれます。男性医師が積極的に育休を取得することは組織力の強化や組織の発展につながるなど、所属先にとっても大きな意義があります。
男性の先生方が育児や家事に積極的に参加する姿に隔世の感を覚えると同時に、みなさんのご家族に対する深い愛情にとても感動しました。
育休を取得された先生方のリアルな声を管理的立場にある先生方にも伝え、育休取得率の男女差の縮小や、男性医師の育休取得も“当たり前”となる職場環境、社会文化をつくっていきたいと考えています。
青森県医師会でも女性医師のみならず男性医師の育休取得を促進するため、今後も育休を取得された先生方からの意見や要望をお聞きし、子育て医師を支えるための活動にしっかりと活かしていきたいと思います。