長年、キャリア官僚として農林水産省に勤め50歳で医学部受験を決意された水野隆史先生が、どうして青森県の十和田市立中央病院で勤務することになったのか。その驚くべき挑戦と軌跡についてお聞きました。
前編では入職に至るまでの苦難と挑戦のエピソード、後編では実際の研修や訪問診療を中心とした現在の働き方のリアルをお届けします。
青森県は、青森市、弘前市、八戸市を除いて、どの地域も面積が広大で人口の割合からすると医療資源が少なくなるのは否めません。十和田市立中央病院では急性期から慢性期、さらに訪問診療まで、幅広く地域のニーズに対応せざるを得ない環境にあります。医師も自分の専門範囲を超えて広く診ることが必要であり、こうした環境こそが十和田市立中央病院で研修をする大きな魅力でしょう。
幅広い症例を診ざるを得ない環境にあるため、自然と全人的に患者さんを診る力を養うことができますし、当然、指導医や上の先生方からも総合診療の指導を受けることができるなど、都市部の病院よりも断然“得した”経験を積むことができます。
また、医師不足とはいえ、「医師が少なすぎて忙しい」というほどでもなく、ひたすら症例数をこなすような環境ではありません。先生方の指導も手厚く丁寧で、実践経験をしっかりと積み重ねながら医師として着実に成長できる恵まれた環境にあります。
また、こうした環境は、総合診療専門医を目指す医師にとっても最良です。十和田市立中央病院は総合診療科専門研修プログラムの基幹施設であり、2023年は3名、2024年には4名の専攻医が入職するなど非常に人気が高く、ここでなら真に実力のある総合診療医を目指すことができます。
現在、高齢化率の高い青森県では、複数疾患を抱えた高齢者に対応できる総合診療医や、臓器別専門医であっても幅広い症例に対応できる総合診療力のある医師が必要とされています。
一方、今は高齢者比率が低い東京などの大都市圏でも、今後、一気に高齢者数が増加することが予測されており、総合診療力のある医師のニーズは尚更、高まっていくことでしょう。
その意味からも、十和田市立中央病院で一緒に研鑽を積む若い仲間達は、医師としての確かな基盤と幅広い診療力を獲得することで将来にわたって大きな糧となり、医師人生のさまざまな場面で活かされるはずです。
十和田市立中央病院 初期臨床研修について、詳しくはコチラへ
初期臨床研修医の募集案内|十和田市立中央病院
十和田市立中央病院 総合診療科 専攻医募集について、詳しくはコチラへ
専攻医の募集案内|十和田市立中央病院
勤務内容としては、訪問診療、総合診療科外来、総合診療科病棟の3つになります。
現在、私は十和田市立中央病院に附属する「とわだ診療所」の所長を務めており、3つのなかで訪問診療の仕事が最もウェイトが高く、140名ほどの患者さんに対応しています。
「とわだ診療所」は、十和田市立中央病院による訪問診療の機能を強化・拡充することを目的として、2019年(令和元年)10月に開設されました。
患者さんが住み慣れた環境で生活を続けたいという思いや、最後まで家族と一緒に生活したいという思いが実現できるよう、ケアマネージャーさん、訪問看護師さん、薬剤師さん、ヘルパーさんなど、地域の多職種の方々と密な連携を取りながら、通院が困難となった患者さんのお宅へ定期的に訪問しています。
この地域は医療資源が潤沢とは言い難い状況のため、以前から病病・病診連携といった医療連携が行われており、加えて、地域の医療・介護・福祉といった多職種とも連携協働しながら在宅医療や介護の支援体制強化が図られてきました。「とわだ診療所」の開設前から、そうしたお互いの顔が見える強固な多職種連携体制が構築されていたため、多職種のみなさんとのチームワークも抜群で、非常に仕事がしやすいです。
看取りへの対応は土日もあるため、以前は休日に家から出ることが憚られたのですが、2024年4月から十和田市立中央病院の総合診療科に4名の専攻医が加わり、医師数に余裕ができたことで土日の往診や看取りも分担できるようになり、今は土日は完全に休むことができています。
「とわだ診療所」について、詳しくはコチラへ
とわだ診療所 | 十和田市立中央病院
外来や病棟では患者さんの病気を治すことがゴールとなりますが、訪問診療は患者さんが最期まで自分らしく生きることを“支える”ことが重要な仕事であり、看取りがゴールになるという大きな違いがあります。
訪問診療では、在宅という日常生活の場で、患者さんと濃密で長い時間を共にし、人生の最期に深く関わることになります。責任の重い仕事ですが、患者さんが最期まで自分らしく生きることを“支える”という大きなやりがいや、最期のお別れの後も、ご家族から「長い間よくしていただきありがとうございました」と感謝されるなど、医師として深い満足感や達成感を得ることができます。
青森県にはたくさんの魅力や良さがあります。
自然の美しさ(八甲田山、十和田湖、奥入瀬渓流など)、豊かな文化(ねぶた祭、弘前さくらまつり、八戸三社大祭など)、おいしい食べ物(りんご、ホタテ、イカなど)、温泉(酸ヶ湯、浅虫など)、歴史的名所(弘前城など)、そして住民のみなさんがとても親切で温かいことも青森の大きな特徴です。
また、十和田市では誰もが文化芸術を楽しめる地域にしていく取り組みとしてアートの力をまちに取り込んでおり、十和田市現代美術館では『まちなか常設展示』が実施されています。
当院の近くの広場の芝生の一角には、屋外彫刻《愛はとこしえ十和田でうたう》作品が展示されています。
「十和田市現代美術館 《愛はとこしえ十和田でうたう》」、詳しくはコチラへ
愛はとこしえ十和田でうたう » 十和田市現代美術館 | Towada Art Center
十和田市立中央病院の先生方は出身地や出身大学も多様で、研修医や専攻医の先生もいろんな場所から集まっているなど、風通しの良い環境が魅力です。
「医師の働き方改革」も始まり、休むことや健康を全員が強く意識して働くようになりましたし、主治医制ではなくグループ制によって業務が分担されており、オン・オフのメリハリもあって働きやすさも抜群です。「地方の病院だから多忙で休みがない」ということは一切ありません。
そして何よりも、“人の好さ”が一番の魅力でしょう。病院スタッフも患者さんもすごく優しく、不安だった初期研修も入職後すぐに病院に溶け込むことができ、日々の診療にも安心して臨むことができました。
こうした“人の好さ”に恵まれた素晴らしい環境のなか、医師として働けることが何よりも幸せなことだと感じており、振り返れば、自分がこうして青森(十和田)で医師として働いているのは必然だったのかもしれませんね。
一度、青森県に来てみることをお勧めします。“人の好さ”を感じてほしいですし、みなさんが心の奥底で求めていた何かが見つかるかもしれません。
最後に、私が医師を目指すことに迷いがあったとき、大きく背中を押してくれた言葉をみなさんに贈ります。
“Twenty years from now, you will be more disappointed by the things that you didn’t do than by the ones you did.” 《Mark Twain / American writer》
(20年後、あなたは自分がやったことよりも、やらなかったことに対して後悔するでしょう/作家マーク・トゥエイン)
今回は、前編・後編に分けて、公開しています。
必然に導かれて十和田市立中央病院へ入職された水野先生。
医学部入学の決意から入職までの苦難と挑戦に迫った前編の記事はこちら。