第15回
産休・育休に関する女性医師対談

2023年3月23日、青森県医師会常任理事の冨山月子先生(青森市:おひさまクリニック)が発起人となり、女性医師の育休・産休に関する対談会が開催されました。
現在、子供を育てながら医師として働いている青森県立中央病院の渡邊里奈先生、青森市民病院の柾谷遙香先生が参加され、御自身が妊娠・出産した時の働き方などについて対談を行いました。

今回は、その対談会の内容について、青森県医師会及び参加者の承諾を得て掲載します。

冨山 月子(とみやま・つきこ)
青森県医師会常任理事
おひさまクリニック院長
冨山 月子 先生(とみやま・つきこ)
[経歴]
昭和61年 3月 弘前大学医学部 卒業
昭和61年 5月 医師免許証取得 (医籍登録番号 第298489号)
平成 2年 4月 八戸市民病院第四内科
平成 2年10月 青森県立中央病院内分泌内科
平成 3年 4月 弘前大学医学部第三内科
平成 5年 4月 青森県立中央病院内分泌内科
平成 9年 4月 青森市民病院第一内科
平成17年12月 おひさまクリニック開業
平成20年 5月 医療法人内科おひさまクリニック 名称変更
平成22年 4月 青森県医師会常任理事
渡邊 里奈(わたなべ・りな)
青森県立中央病院 リウマチ膠原病内科 副部長
渡邊 里奈 先生(わたなべ・りな)
6歳と、1歳の男の子を子育て中
卒後4年目(大学院2年目)の2016年9月に長男を出産。
(産前休6週)2017年3月末まで育休を取得。
卒後8年目、学位や専門医取得後の2021年12月に次男を出産。
(産前休8週)2022年9月末まで育休を取得。
柾谷 遙香(まさや・はるか)
青森市民病院 小児科 副部長
柾谷 遙香 先生(まさや・はるか)
4歳の男の子を子育て中
小児科2年目(医師4年目)の時に出産。
10月から1年間育休を取得。

冨山先生

妊娠・出産した際に良かったこと、または「このようなことがあれば良かった」と感じたことはありますか?

渡邊先生

やっぱり、子育てできるのは凄く良いことかなあと思いました。
1人目の時が卒後3年目で妊娠しまして、卒後4年目の大学院2年目の時に出産したっていう形でした。
妊娠しながら学位を取ることについて、基礎だと夜間も出なければいけないなどの時間的制約があって難しいんじゃないかということで、当時の教授から「臨床的な内容で学位を取ろう」と提案をしてもらえて、そこは周りの先生方にサポートしてもらえて良かった点かなと思いました。
妊娠中は、やっぱり人それぞれだとは思うんですけど、悪阻が酷かったりした時に、ちょっと休める制度とかがあると良いのかなっていうのは思っています。

冨山先生

悪阻って、外から見たら分からないですよね。
悪阻に対して知識がもっと広がって、ちょっと休んでってできるといいですよね。

柾谷先生

私は卒後3年目の時に妊娠が分かったんですけど、やっぱり3年目って一番勉強しなきゃいけないし、一番下っ端として働かなきゃいけないしというタイミングで、上司の先生に「妊娠しました」って報告する時に、正直すごく怖くて。
でも、小児科なので、そこは「良かったね」って言ってくれたのが、すごく嬉しくて。
最初の上司の先生の反応って、結構凄く大事というか、周りからどのような反応が返ってくるかで、妊娠中の仕事のしやすさが変わるのではないかと感じました。

冨山先生

妊娠・出産は、医師として丁度力をつけたいと考える時期と重なってしまいますが、葛藤などはありましたか?

渡邊先生

(妊娠当時は)消化器内科だったので、透視検査に入れず、「手技はできないだろうな」って思いましたね。出産して復帰した後の内視鏡とかはやらせていただいて、ある程度までできるようにさせていただいたので、そこは凄く良かったです。
ただ、手技をたくさんやりたい先生だと、そこはやっぱりブランクを感じてしまうのかなって思うことがあります。
あとは、1人目の出産時、産休・育休中は臨床から離れてしまったので、復帰する時に凄く怖くて。2人目の出産時はちょうどコロナ禍だったので、学会・講演会がwebになっていて、それを見ることで臨床から離れないようにしていました。

柾谷先生

私は1年育休を取得したので、確かに復帰するのが怖かったっていうのは、ものすごい分かりますね。
でも、子供の母親は自分だけだし、母としての成長は小児科医としての成長にもつながると考えていました。

冨山先生

復帰する際に、研修会やリスキリング等はあったほうがいいと思いますか?

渡邊先生

リハビリができる期間はあった方が良いと思います。あと、人とあんまり話さなくなってしまって…(苦笑)。別に医局の会とかでも全然良いと思うんです。人と会って話すというのがあると良いかなと思いました。
(復帰の時は)現場感というか、そういうのについて行けてるのかしらとか思って、ドキドキしました。

冨山先生

復帰してきたっていう人に、手助けしてれる人がいれば凄く嬉しいですよね。

柾谷先生

市民病院もたくさん(救急が)来るので、もうバクバクで。

冨山先生

実際には、4~5年医師をやっていたら、半年休んでもそんなにギャップって無いんですよね。でも、多分初めて休んだ時って「どうしよう」ってきっと思うんじゃないかしら。
それをどうやって解消できるか。私、以前教授に言われたんですよ。「臨床ってそんなにね、1年やそこらで変わることはないし、そもそもみんな勉強してるんだから、色々文献で読んでるものが『あぁそういえばこれは実際使われるようになったな、流行ってきたな』くらいで、だからあんまり心配しなくていいんだよ」って。
ただ、科によって違いますよね。

渡邊先生

そうですよね、手の感覚とか。外科系も…。

冨山先生

これから産休・育休に入る人、産休が終わってちょっと時間経った人が交流する場を作るのが、県の医師会ができることかもしれません。もうそろそろ現場に戻るんだけども不安だと、臨床的なものについていけるかっていう時に、「3年前に私こうだったけど、こんな感じよ」とか、「じゃあこういうの勉強しておいたら」とか、「こういうのを準備できたら良いんじゃない?」って話ができる人がいれば、少し安心できますよね。

冨山先生

当直はどこまでやっていましたか?妊娠が分かったタイミングで免除してもらっていましたか?

渡邊先生

私は、妊娠がわかったタイミングで免除してもらいました。

柾谷先生

私は、全科当直は免除していただいて、小児科の待機は自分で「できます」と伝えて、今までと同じように入ってたんですけど。やっぱり夜中に呼ばれてお腹が大きいまま行くと、患者さんの家族に驚かれて謝られたことがあって。普通は、妊娠中ってあんまり夜中働くってことあんまりないのかなーと思ったりして。
自分から「待機をできれば何回にしてもらいたいです」とかは、どうしても言いづらいので、聞いてくだされば凄いありがたかったかなっていうのはありました。

冨山先生

子供さんが病気で熱を出した時などに、どんな風にしてたとか、教えていただけますか?

渡邊先生

幸い、私の子供はあんまり風邪を引かなくて、本当にたまーに(熱を出すくらい)だったので、そんなに大変ではなかったです。
今は(勤務先が)青森市で実家があるので、熱が出た時とかは、実家の私の母にお願いして看てもらってましたけど。
弘前に勤務していた時が、夫が単身赴任中で、子供と私2人きりだったので。やっぱり急に途中で抜けなきゃいけなかったりというのはありました。
病棟だったらチーム制で、私以外の先生が対応できたんですけど。外来だと、その後の残った外来患者さんを他の先生にお願いするっていうのが、ちょっと心苦しいところはありました。

冨山先生

病棟のチーム制って、これが一番ありがたいですよね。逆に、どの先生が診ても一定の医療ができなきゃいけないということ。それを覚悟でちゃんとカルテを書いているし、治療方針を書いているから、「この先生がいなくなって分からない」ってそれじゃだめですよね。だから、そういう風な体制が外来にもあればいいような気がしますよね。

冨山先生

現在の子育ての状況はどうですか?

渡邊先生

保育園への送り迎えは私が行ってます。(夫は)平日は朝も早くて帰ってくるのも遅いので、早く帰れた日は(子供に)接するかなくらいで。
急な呼び出しの時には、実家にお願いしてますね。

柾谷先生

私はいわゆる世間一般の逆で、出産する時に「私が働く、夫が家事をメインでやる」っていう家庭って決めたので。
なので、(夫は)8時~17時っていう定時の病院で働いてくれていて。保育園の送り迎えとかも、行ける時は私がやるんですけど、夫がほとんどやってくれて、洗濯とか掃除とかも全部やってくれてっていう感じなので。
急な呼び出しの時は、ほとんど夫に対応してもらっていて、だめな時は実家に頼るんですけど。
そういう家庭になるまで結構何回も喧嘩しましたし、いっぱい話し合って、どういう風に2人で子供をちゃんと育てていったらいいのかっていうのは、何回も喧嘩しながらでも話し合うことって大事なのかなって凄い思いました。
そういう方もいるっていうのを、他の若い先生方に「こういう例もあります」って(知ってほしい)。

冨山先生

柾谷先生、次のお子さんはほしいと思います?

柾谷先生

考えてはいるんですけど。いろんな仕事を任されるようになると、今は中堅として一番働かなきゃいけなくて、下も育てなきゃいけないしっていうポジションで、「ここで育休を取っていいものか…」とは思っています。

冨山先生

どのようなサポートがあれば嬉しいと感じるか教えてください。

渡邊先生

やっぱり、宿直免除だとか待機免除っていうのは本当にありがたかったです。
でも、サポートしてくれるのもありがたいんですけど、こちらばかりが何かしてもらってる感が、凄く心苦しいなって。
妊娠した医師に対してどういう風にしてほしいのか、「このタイミングで働いてほしい」とか「こういうこと言ってほしい」とかの要望や、「こういう風に働いていこうか」って提案してくれるのもあると良いなって思いました。

柾谷先生

育休を取る時って、そこの病院に一定期間勤務していなければ、育休中のお金が出ないっていうシステムを知らない人が結構多くて。
育休中のお金がもらえる権利はみんなにあるはずなのに、産休に入るタイミングで他の病院に異動となって育休中のお金がもらえなかったという先輩も見てきたので、それを情報として知る機会があればいいと思います。

冨山先生

妊娠の可能性があるとか、妊娠したっていう段階で、その先をちょっと見て、医師を派遣する医局とか、あるいは病院がそれを考えてくれれば良いですよね。
妊娠した時に、「私はこういう風な働き方をしたい」とか「子供産んだら1年間育休取りたいです」とか、「すぐ復帰してこうしたい」とか、そういう話っていうのはしました?

渡邊先生

自分が妊娠した時に、上の妊娠・出産経験した女性医師に色々聞いて、「はっきり言った方がいいよ」っていう風に教えていただいて。
それに倣って、「ここまで休みたいです」みたいな感じで伝えることができました。

柾谷先生

私も、「はっきりちゃんと言わないと分かんないから言った方がいいよ」って他の先生からアドバイスいただいて、「1年休みます」っていうのは伝えましたね。

冨山先生

私たち県医師会は、何か役に立ちたいと思ってますので。また先生方の話を聞かせてもらったりとか、あるいは先生方に今後もっと若い先生たちと話をしてもらったりする場を視野に入れて、活動を考えていきます。今日はありがとうございました。