第18回 育休経験をしたパパ医師たちのホンネ!
青森県、パパ医師の育休事情

育休経験をしたパパ医師たちのホンネ!を聞く

男性の育休取得はハードルが高いと言われていますが、青森県における男性医師の育休事情はどうなのでしょうか?
青森県医師会副会長として女性医師の活躍・育児支援にも取り組んでいる冨山月子先生(内科おひさまクリニック院長)が発起人となり、育休経験をしたパパ医師5名から育休の感想や意見、要望などを聞きました。

(取材日:2024年10月18日)
大石 和生 先生
弘前大学医学部附属病院 整形外科 助教
大石 和生 先生
大学卒業年:2010年
育休取得期間:2024年5月・3週間程度(産後パパ育休)
子ども:4人
所属先での男性育休例:なし
引地 浩基 先生
弘前大学医学部附属病院 脳神経内科
引地 浩基 先生
大学卒業年:2016年
育休取得期間:妻の産後1か月と復帰時1か月間(慣らし保育時)
子ども:1人
所属先での男性育休例:なし
笹田 貴史 先生
弘前大学大学院医学研究科 消化器血液免疫内科学講座
笹田 貴史 先生
大学卒業年:2018年
育休取得期間:2023年8~9月・1か月間(新生児期から乳児期)
子ども:2人
所属先での男性育休例:なし
藤田 友晴 先生
弘前大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科頭頸部外科
藤田 友晴 先生
大学卒業年:2018年
育休取得期間:2023年9~10月・1か月間(慣らし保育時)
子ども:1人
所属先での男性育休例:なし
外崎 奏汰 先生
十和田市立中央病院 総合診療科
外崎 奏汰 先生
大学卒業年:2018年
育休取得期間:2023年7月・1か月間(育休3-4日と有休を組み合わせた)
子ども:1人
所属先での男性育休例:あり(別の診療科)

育休を取得した経緯は?

  • 女性が多い診療科で、育児をしながら働く大変さを見ていた。
  • 比較的新しく風通しが良い科で、前例がなくても男性育休をお願いしやすかった。
  • 妻が入院した際、子どもの面倒を見て大変さを実感した(二人目が年子であった)
  • 妻(医師)がフルタイムで復職する際に、今後どのような生活になるかお互いに不安だった。
  • 産後の体力回復の力になりたいと思っており、取得することを決めていた。
  • 別の診療科の先生が「1か月取得して良かった」と話されているのを聞いた。
  • 4人目の子どもが生まれる際に妻と相談し、上の子どもを見る人が必要だった。

Point!男性の育休取得の促進のために

2022年4月に、男性の育児休業の取得促進につながる「改正育児・介護休業法」が施行され、新生児期に母親が一人で子育てを抱え込むことがないよう、父親が育休を取得できる【産後パパ育休(出生時育児休業)】の創設や、事業主に対する育児休業取得率の公表の義務化などが定められたことで、男性の育児休業が取得しやすくなりました。

また、男性の育児休業の取得を促す目的としては、2010年に定められた母親の職場復帰時などに活用しやすい【パパ・ママ育休プラス】といった制度もあります。

「育休取得はキャリアに不利になるかもしれない」という懸念は依然として根強くありますが、数年ならまだしも、数か月の育休でキャリアに影響がでることはありません。子どもが大きくなるのはあっという間です。その貴重な時間を一緒に過ごすことは、たとえ1か月間であったとしても、長い医師人生のなかで大きな宝となるはずです。

【産後パパ育休】

妻の出産後8週までの期間内に、最長で4週間の休業を、育児休業とは別枠で2回に分けて取得できる制度。

【パパ・ママ育休プラス】

夫婦の取得タイミングを調整することで、通常1歳まで取得可能な育休期間を1歳2か月まで延長できる制度。夫婦同時の育休取得も可能です。

育児休業制度について、詳しくはコチラへ
厚生労働省 育児休業特設サイト
育児休業特設サイト|厚生労働省

育休取得は言いやすかった? 周りの反応は?

  • (教授から)むしろ取ってほしいと背中を押してくださった。
  • パート先の病院でも快く受け入れて下さった。
  • 前例があったので言いやすく、スムーズに取得できた。
  • 以前、教授から育休取得を提案されたが、大学に戻ったばかりで制度上も、自身の業務上も取ることができなかった経緯があり、今回は取得しやすかった。

Point!青森県は“こころよく”育休を取得できる環境!?

育休の「前例がない」職場で働く男性医師にとって育休取得のハードルは非常に高いと思われますが、今回お話を聞いたパパ医師の5名中、4名が所属診療科で初めての男性育休取得者となっています。

さらに、『 (教授から)むしろ取ってほしいと背中を押してくださった』『以前、教授から育休取得を提案された』『パート先の病院で育休取得を快く受けてもらった』という声もあることから、育休取得に対する職場の理解・共感がしっかりあることはもちろん、男性医師の育休を力強く後押しするなど、青森県は“こころよく”育休を取得できる環境にあります。

育休取得にあたって準備したことや大切なこと

  • 上司や周囲に育休を取得することを早くから相談。
  • 休むと他に負担がかかるのは当たり前、早め早めに相談しておくのが一番大事。
  • 育休取得は権利だがそれに甘えてはいけない、日頃の行いが重要。
  • 診療グループに分かれており、一緒に働く先生に負担をかけてしまうため、他の先生が交代でグループをサポートしてくれるように頼んでおくなどの対策をした。
  • 当直はもともと多くなかったが、育休に入る前にまとめて当直を引き受けた。

Point!育休をスムーズに取得するために

育休は1か月前の申請で取得することができ、さらに、産後56日までに適用される【産後パパ育休】の場合は2週間前の申請で取得可能です。これはあくまでも制度上適用できる申請期限であり、育休によって受け持ち患者の引き継ぎ、外来診療の担当変更、当直の調整、場合によっては代替医師の確保などが必要となるため、育休取得の申し出はできるだけ早く行うことが大切です。妻の妊娠が分かったときには職場に相談しておくのがいいでしょう。

育休取得は業務のタスクを割り振ることになるため、多かれ少なかれ育休者の負担を同僚が担うことになり、医師ともなれば患者に対する責任も発生します。これは決して育休取得者の責任ではありませんが、常日頃から同僚に力を貸すなど、信頼関係をしっかり構築しておくことで、“育休者の負担を担う” という感覚が“互いに支え合う”というものになります。相手への配慮も育休をスムーズに取得するために非常に大切なことです。

育休中の周囲の対応は?

  • 育休取得中は、外来グループ所属として扱ってもらった。外来グループは基本的に夜間呼出しがなく、育休中は外来業務を他のグループの先生が交代で担当した。
  • 病棟は完全なグループ制になっているので、(残された人の負担は増えるが)育休以外で休んだ場合と同じで大きな混乱はなかった。女性医師が多く、休職する医師が多いという特色が反映されていた。
  • 外来とパート先は個別交渉と医局長の采配、待機・当直は免除。
  • 市中病院であり完全主治医制ではなかったこともあり外来等の調整がしやすかった。やむを得ない場合は同じ診療科の別の先生に対応をお願いした。
  • パートの割り振りは医局長が行っており、自分が対応するはずだった手術はパート先の先生にお願いして育休中は手術を入れないようにお願いした。

Point!“助け合い”の精神が息づく青森県の医療環境

青森県は医師不足県であり、全国8位の広い県土に人口が拡散していることが特徴です。狭い面積に大病院が林立する大都市とは異なり、青森県では広大な地域にいる患者を少ない医療機関、少ない医師でカバーしなければなりません。そのためチーム医療や多職種連携、病院間・施設間の連携・協力体制が非常に強く、「困っているというときには必ず助けてくれる先生がいる環境」にあるなど、青森県の医療には“助け合い”の風土が根付いています。

育休が取得しやすいかどうかの大きなポイントは「人と人との関係」です。いくら育休制度が整っていても、上司や周りの理解と協力、支援がなければ育休を取得しにくいのが実際です。“助け合い”の精神が息づく青森県は、上司や周りからの理解・協力・支援を得やすく、安心して育休を取得できる環境にあると言っていいでしょう。

青森県の医療環境について、詳しくはコチラの記事へ
青森県 医ノ森 地の利を生かした育成環境
地の利を活かした育成環境~青森県で育つ総合診療医~ | 医ノ森 aomori

育休中の過ごし方は?

  • 夫婦で仕事復帰した後に、育児・家事負担をなるべく公平にできるようにしたいと夫婦で話し合っていたため、家事はすべて自分が行い、育児は2人でした。
  • 育休中は家事をすべてやるようにしたが、夜泣きの対応がどうしても妻になってしまうなど、寝不足を解消してあげられなかった。
  • 家事を全てやったとは言えないが、育児に関してはミルクをあげるなど、妻、お互いの両親と協力した。

育休取得をして良かったことは?

【妻に対して】

  • 妻がしていること、不安に思っていることを共有できた。
  • 育児、家事のやり方について、仕事が忙しくなる前に話し合うことができた。

【子どもに対して】

  • 子どもの生活リズムが大体分かったので仕事をしていても想像しやすく、今日は早く帰ろうなどと活かすことができるようになった。
  • 子どもたちが日中、どのように過ごしているのかが分かった。

【所属先に対して】

  • 育休を取ったことで、育休終了後も子どもが体調を崩した時に休みやすい雰囲気ができた。
  • 後輩や、他の診療科でも育休を取得しやすい雰囲気ができた。
  • 専門医資格取得との兼ね合いなど、どのくらい休んでいいかといったアドバイスできるようになった。

Point!男性医師の育休取得は所属先にもメリット!

男性の育休取得は、出産後の妻の負担軽減はもちろん、パパ医師の場合は妻が医療人である場合も多く、妻の職場復帰に向けた準備やスケジュール調整がしやすくなるなど、妻のキャリアにも貢献することができます。

さらに男性医師の育休取得は所属先にも大きなメリットをもたらします。
育休を取得することで、所属先では特定の医師に業務が集中する属人化の解消や、業務バランスの標準化が図られるなど、次のパパ医師が育休取得をしやすくなる流れができます。育児のサポート体制に手厚く、ワーク・ライフ・バランスに優れた環境が醸成されていくことで、人材の定着率アップ、新たな人材の確保といった好循環も生まれます。男性医師が積極的に育休を取得することは組織力の強化や組織の発展につながるなど、所属先にとっても大きな意義があります。

育休での反省点は?

  • 夫婦で復職後、徐々に家事育児負担が妻に偏り始めた。必ずしも公平である必要はないと妻から言われたが、再度負担の見直しをしたい。
  • 育休終了後はどうしても妻に育児・家事負担が偏ってしまう。

利用して分かった育休の課題や要望など

【育休期間について】

  • 本当はもっと育休を取得したかったが、収入を下げられなかった。
  • 3週間程度ではあまり貢献できないと感じた。
  • 最低2~3か月取得したかったが、業務が回らなくなるという不安があったので取得は1か月のみとした。出産後から乳児期を乗り越えたあたりで育休が終わってしまったのでもっと取得したかったが、その後も早めに帰宅させてもらえた。
  • 1か月では短く、2~3か月から半年は必要だった。

【制度について】

  • 慣らし保育期間に育休を取得した。子どもを預けている時間にパート勤務ができたのではないかと思う。(年次有給休暇を使いパートに行くという方法も提案されたが、不測の事態に備えて有休を残しておきたかった)
  • 1日子どもに会えないということが親にも子どもにもストレスになっているので、当直後の勤務を休みにしたり時短にしたりできると良い。

【取り組みたいこと】

  • 診療科全体の雰囲気として、育休に関わらず休みを取れる雰囲気を継続して残しておく必要がある。
  • 後輩には「育休を取っていいんだよ」と言いたい。休みやすい雰囲気を作ってあげたい。

育休を経験したパパ医師たちの声を聞いて

青森県医師会副会長 冨山月子先生

男性の先生方が育児や家事に積極的に参加する姿に隔世の感を覚えると同時に、みなさんのご家族に対する深い愛情にとても感動しました。

育休を取得された先生方のリアルな声を管理的立場にある先生方にも伝え、育休取得率の男女差の縮小や、男性医師の育休取得も“当たり前”となる職場環境、社会文化をつくっていきたいと考えています。

青森県医師会でも女性医師のみならず男性医師の育休取得を促進するため、今後も育休を取得された先生方からの意見や要望をお聞きし、子育て医師を支えるための活動にしっかりと活かしていきたいと思います。

冨山月子先生